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京都地方裁判所 平成5年(ワ)998号 判決

主文

一  被告は、原告甲野太郎に対し一四六万六五三五円、同甲野花子、同甲野春子及び同甲野一郎に対しいずれも二二万四一七七円、原告乙山物産株式会社に対し七五万三五〇〇円及びこれらに対するいずれも平成五年四月二七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その一を被告の、その余の原告らの負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は、各原告に対し、別紙損害金別表の総損害額欄各記載の金額及びこれに対するいずれも平成五年四月二七日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案

本件は、被告会社(証券会社)従業員の勧誘によって金融商品を購入した原告らが、右従業員が勧誘時に必要な説明をしなかったり違法な勧誘をしたとして、債務不履行ないし不法行為にもとづき右購入の結果被ったとする損害を請求する事案である。

二  前提事実(争いのない事実等)

1(一) 被告は有価証券の売買やその仲介を業とする株式会社である。

(二) 原告らは、平成元年九月一二日から平成三年六月一九日までの間に、被告から、別紙「損害金別表」(以下「別表」という。)記載のとおり、同表「名称」欄各記載の金融商品(投資信託、以下「本件商品」という。)を購入した〔ただし、原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)と同乙山物産株式会社(以下「原告会社」という。)については、自己または原告会社社員丙川松夫(以下「丙川」という。)を代理人として、その余の原告らについては原告太郎または丙川を代理人として購入〕。なお原告会社を除く原告らはいずれも昭和五七年三月一三日に被告との間の取引口座を開設した。

(三) 被告補助参加人(以下「参加人」という。)は、右(二)の期間、被告の従業員であり、原告らの担当者(投資信託等の取引権限を有する者)であった。

2 原告らは、別表<5>及び<7>ないし<9>記載の商品を、別表「売却年月日」欄各記載の日に同表「売却金額」欄各記載の価格で売却した。その余の商品についての平成七年一月六日現在の価格は同表「売却金額」欄記載の価格である。

また、平成二年ないし六年の各年の二年中期国債の利率は、平成二年が年七パーセント、同三年が年六・五パーセント、同四年が年三・五パーセント、同五年が年二・七パーセント、同六年が年二・五パーセントであり、原告らが購入した各商品の購入代金額で右中期国債を購入していた場合の利息額は(別紙「利金明細」の計算により)別表「利金」欄各記載のとおりの金額となる。

3 本件商品は、いずれも、信託終了(償還)日において購入金額を下回る(元本割れする)可能性がある商品である。

三  争点

1 被告の責任について

(一) 原告らの主張

(1) 参加人は、原告らが本件商品を購入するについて、原告太郎や丙川(右二名を以下「原告太郎ら」という。)に対し、本件商品が元本保証のある商品であると虚偽の説明をし、「元本の割れない高利回り商品です。満期になった国債等から切り換えて下さい。」などと述べた。原告太郎らはこれを信じて本件商品を購入した。

また(仮に参加人が右のような説明をしていたと認められないとしても)、原告太郎らは、本件商品の購入前に、参加人に対し、元本割れしない商品であれば購入すると明言していた。それにもかかわらず、参加人は原告太郎らに対して単に高い利息のつくいい商品であるとか元本と高い利息を支払う旨述べて本件商品の購入を勧め、その際元本割れの可能性・危険性について何ら言及しなかった。

(2) 参加人の右のような説明等は、元本が保証されているような誤解を与える説明ないし証券投資信託等の将来の運用成績についての断定的判断の提供としてそれ自体違法であって、参加人が元本割れの可能性がある旨説明しなかった点は元本割れの危険がある本件商品の説明として不十分であり、参加人には説明義務違反がある。

(3) 原告会社は従業員の数もさほど多くない非上場会社であり、原告太郎らの本件まで、証券会社との間の取引もさほどなく、しかも国債、割引債の購入や金貯蓄などの経験が主であって、金融商品取引の経験や知識はほとんどなかった。したがって、原告らの経歴や取引実績を強調する被告の主張((二))は失当である。

(二) 被告の主張

(1) 原告会社を除く原告らはいずれも昭和五七年三月一三日に、原告会社は平成二年六月一三日に、それぞれ被告との間の取引口座を開設し以後有価証券取引を継続している。原告ら(一部)は、この間、参加人が原告らの担当者となった平成元年五月二〇日の前である、昭和五九年六月二五日に転換社債(旭硝子)を購入しているほか、参加人が担当者となってからも平成元年一〇月二六日に株式を購入してこれを翌日には売却して利益を生じさせるなど、元本保証のない転換社債や株式、外国債券等も購入している。また、国債については償還期日前に売却すれば損失が生じることがあるが、原告会社を除く原告らは昭和五九年三月一六日に買い付けた償還国債につき償還期限前の昭和六一年一二月二二日に売却して損失を生じさせるなど国債売買でも損失を出しており、中には本件商品を買い付けるために償還日を待たずに損失を出してまで売却したものもある。しかも、取下前の原告甲野夏子及び同甲野秋子は、昭和六三年七月一四日に本件商品と同様の投資信託(『ユニット国債型』)をも購入しており、これも実際は原告太郎らが行ったものである。

また原告会社は貸金業、不動産賃貸業を営む会社であり、原告太郎は昭和三五年以降貸金業を経営している。丙川は昭和六二年以降原告会社の経理を担当し、これに精通していたうえ、平成二年六月に新たに開設した原告会社の取引口座を通じた取引を担当していた。このような取引のなか、原告太郎らは右のような有価証券取引について相当の知識を有していた。

(2) 参加人はこのような経験や知識のある原告太郎らに対して、電話説明をし、パンフレットを送付したうえで原告会社を訪問して本件商品の説明を尽くしている。また、参加人が自ら作成したパンフレットにも、本件商品中の『中小型成長株(ファンド)91』がその投資対象の八〇パーセントを国内の中小型二部株店頭株とする投資信託であることが明記されている。

(3) 本件では参加人が原告らの主張するような説明をしたことを認めうる証拠はないが、右のような原告太郎らの経歴や取引実績、参加人の説明内容からすれば、原告太郎らが本件商品につき元本保証のある商品であると誤信することはない。

2 1が肯定された場合の原告らの損害とその額

(一) 原告らの主張

原告らは、本件商品について元本割れの可能性があると知っていれば、これを購入しなかった。原告らが本件商品を購入せず、中期国債を購入していたとすれば、原告らは別表「購入金額」欄各記載額と同表「利金」欄各記載額の合計である同表「元利合計」欄各記載の金額を取得していた。したがって、原告らの損害は、右「元利合計」欄各記載の金額から同表「売却金額」欄記載額を控除した金額である同表「差引損害額」欄各記載の金額とその約一割に相当する同表「弁護士費用」欄各記載額の合計であり、同表「総損害額」欄記載のとおりである。

(二) 被告の主張

原告らの損害を争う。

また、前述した原告らの金融取引の経過からすれば、原告ら側には損害発生に対する過失がある。

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

1 原告らが本件商品を購入する際の参加人の説明内容について

(一) 《証拠略》によれば、争いのない事実を含め、以下の(1)ないし(6)の各事実を認めることができる。

(1) 原告会社は貸金業、不動産賃貸業を営む会社であり、原告太郎は昭和三五年以降貸金業を経営している。丙川は昭和六二年以降原告会社の経理を担当し、これに精通している。原告らの経済状態や原告会社の営業状態にはこれまで特に問題はなく、銀行融資以外に金銭の必要を感じたことはない。

(2) 原告会社を除く原告らはいずれも昭和五七年三月一三日に被告との間の取引口座を開設し以後有価証券取引を継続してきた。

この間、原告太郎は、参加人が原告会社以外の原告らの担当者となる平成元年五月二〇日の前に、自らの名義で昭和五九年六月二五日に転換社債(旭硝子)を、取下前の原告甲野夏子及び同甲野秋子の名義を用い(ないしその代理人として)昭和六三年七月一三日に本件商品と同様の投資信託(『ユニット国債型』)を購入した。また、原告太郎(ないし原告会社を除く原告ら)は昭和五九年三月一六日に買い付けた償還国債につき償還期限前の昭和六一年一二月二二日に購入価格より低い価格で売却したほか、中期国債ファンド(投資信託の一種)の売買をすることもあった。

しかし、原告太郎(ないし原告会社を除く原告ら)が被告から購入していたのは右のほかはほとんどが割引債と利付債であって、投機的な金融商品を購入したり、一般投資家のように株式売買を繰り返すということはなかった。また、国債の中途解約は、被告担当者(当時)からより利率のよいという商品を勧められたために行われたものであるうえ、原告太郎は右売却前にすでに右国債について利息配当を受けており、これを加えると国債売買自身による損失も生じないか少額の損失を生じたにすぎなかった。

(3) 参加人は、平成元年五月二〇日に原告会社を除く原告らの担当となった。

参加人は、おおむね、被告が新商品を発売するごとに、原告太郎らに対してその連絡をしたり、被告が作成したり自分で作成した商品説明のパンフレットを送付あるいは交付してその購入(新規契約の獲得)に努めた。これに対し、原告太郎らは、参加人に対し、原告らは原則的には元本保証のある商品しか購入しない旨述べていた。

原告太郎は、参加人の勧めにより、平成元年一〇月二六日に株式(日本通運)を購入してこれを翌日には売却し、利益を生じた。しかし、同原告がこれ以降株式投資を続けて行うことはなかった。

(4) 原告会社は平成二年六月一三日に参加人の勧めにより被告との間の取引口座を開設し、以後丙川が原告会社の取引口座を通じた取引を担当していた。

その後、原告太郎及び原告会社を除く原告や取下前の原告甲野夏子及び同甲野秋子が購入した前記のような金融商品については、誰がどの商品をどれだけ購入するか等について原告太郎らがすべて判断していた。

(5) 参加人は本件商品が発売された当時の社内勉強会の結果などにより、本件商品のような投資信託はその性質上信託期間終了時に元本割れする可能性があるということを知ったが、現実には投資信託が当時の株式市場の好況を反映してその信託期間内に高い利息を生じていることをも知っていた。

本件商品については被告が作成した正規のパンフレットがあり、それには本件商品が元本保証のない商品であると記載されていたが、参加人は右正規のパンフレットを利用して元本保証のない商品である旨の注意を除いた説明文書(甲三の文書に限らない。)を作成してこれにより顧客に投資信託を勧めることもあった。

(6) 原告らは、参加人の勧めにより本件商品を購入することとしたが、その際、その主な購入原資として、被告から購入していた国債等の償還金やこれらを中途解約して取得した金銭を利用した。

(二) (一) 認定の事実と《証拠略》を総合すれば、参加人が、原告らが本件商品を購入するに際して、本件商品は元本割れすることがない旨、あるいは本件商品には元本保証がある旨述べたことを認めることができる。

(三)(1) 右(二)の認定に関し、参加人は、証人として、自分は本件商品が元本割れしない商品であるとは言っていないと述べ、原告太郎らから元本割れしない商品を購入したい旨と言われてよい利回りの見込める商品として本件商品を勧めたのであって、確定的判断ではなく当時の状況を踏まえた見通しを述べたに過ぎない旨供述する。

そのうえで、参加人は、甲第一、二号証の信用性に関し、右各書面はいずれも参加人が任意に書いた下書きをもとに原告太郎らの意向により書き換えないし書き加えをしたものであって、丙第一号証の一、第二号証の一、第三号証が甲第一号証の下書きであり、これらはいずれも参加人が原告会社の事務所で書いたもので、丙第一号証の一、二号証の一、第三号証の用紙はいずれも原告会社の事務所にあったと供述している。そして、参加人は、甲第一、二号証は原告らの意向に副うためあえて内容虚偽のものを半ば原告らの強制下で書いた旨主張する。また被告は、甲第一、二号証に記載された、本件商品が元本割れしない商品である旨の説明部分は原告らの要求によって付加されたと主張し、参加人の右供述を援用する。

(2) そこで検討するが、まず、甲第一、二号証を作成した時点で既に乙第二〇号証を作成している参加人としては、自分が元本保証をした旨の記載をすることが被告との関係で立場を悪くすると考えていたと認めるのが自然である。そうすると、参加人がなるべくそのような説明をしたことを記載しないで原告らへの対応を済まそうと考えても特に不自然ではないから、甲第一、二号証の右説明部分が原告らの要求によって記入されたとしても、参加人が右のような説明をしなかったと推認することは不可能であって、被告や参加人のこの点の主張はさほど根拠として有力とは思えない(本件での争点の中心は参加人が本件商品について元本保証があるとか元本割れしない商品であると述べたかであるが、右の事情下では書き直しの有無がその認定にさほど影響するとは考え難い。)。

(3) ところで、丙第一号証の二は同号証の一と同一の用紙に記載された文書である。そして、参加人は、(1)のような供述に加え、丙第一号証の一、二は同一機会に書いたと供述する一方で、乙第二〇号証はその後被告社内で、資料を見ながら記憶を喚起させて書いた文書であると供述している。

しかし、丙第一号証の二には、右乙第二〇号証(三枚目)と同一内容の、原告らが購入した日本通運株の売買についての記載があり、このことからすれば、丙第一号証の二は参加人が被告社内で書いたものであることが明らかである。したがって、これと同一用紙に記載された丙第一号証の一が原告会社の事務所で作成された甲第一号証の下書きであるとの参加人の供述はとうてい信用できない。のみならず、参加人が右のような供述をする理由としては、甲第一、二号証に記載された、元本割れしない商品と言った旨の自己(参加人)の説明部分が原告らの意向により参加人の自由な意思によらないで記載されるに至ったと強調する目的があると考えるのが自然である(ただし参加人が甲第一、二号証を作成するについて書き直しをした可能性は特に否定しない。)。

確かに、参加人が甲第一、二号証を書いた理由の一つに、原告太郎が本件商品によって損失を被ったことについてその原因が被告や参加人にあるとして憤激していたため、自分(参加人)は被告の社内勉強会で受けた説明どおりに説明しただけであるとの弁明をしたかったことがあると認めることが可能である。しかし、証券会社の顧客担当社員が元本割れをした商品や差損を出した商品の清算につき社員の説明した見込みとは違ったとして立腹する顧客に対する対応をするのは世上ままあることであって、原告太郎の被告社員に対する粗暴な対応(原告兼原告乙山物産株式会社代表者)を考慮しても、参加人が原告太郎らに求められるまま甲第一、二号証のような内容の事実経過(参加人の供述からすれば虚偽の事実経過)を記載したということは不自然である。

(4) このことに照らせば、前記(二)認定のとおりであって、参加人は原告太郎らに対し、単に好況期であるから利益が生じる可能性が高い旨述べたのではなく、本件商品が元本割れしない商品であると確定的判断を提供していたことを認めることができ、右認定に反する証人岡本光世の供述部分は右のような事情が認められる以上信用できない。

2 次に、原告太郎らの経歴や経験その他の事情に照らし、同原告らが参加人の説明によって本件商品が元本割れする可能性がないと信じたと認められるか否か(原告らの誤信の有無ないし参加人の説明と原告らの誤信との因果関係)を検討する。

(一) 原告らの経歴としては、1(一)で認定した諸事実が認められる。

(二) 被告は、右のような原告らの経歴等を強調する。確かに、原告らはこれまで元本割れする商品を購入しており、またこの点に関し原告太郎が記憶がないと述べる部分は不自然であって容易に信用できない。

また、本件パンフレットには、本件商品中『中小型成長株(ファンド)91』が投資信託であること、その投資対象の八〇パーセントが株式であること、その株式も国内の中小型二部株店頭株であることが明記されているうえ、『売買益の獲得をめざす』という、確実に収益を得られるとは限らないとの意味が含まれるというべき記載もあるから、これらの記載に注目すれば、株式投資の経験がさほどなくても、原告太郎ら程度の経歴・経験があれば右商品に元本割れの危険があることを察知できるとも考えられる。

しかし、1(一)の認定事実によれば、原告らはこれまで元本保証のある金融商品を主として購入しており、これらに比べて株式等に対する投資は少額であって、しかも優良銘柄に対するものであり(顕著な事実、弁論の全趣旨)、回数も少ないといえる。このことからすれば、原告らは投資に関してはしょせん素人というべきであって、証券会社である被告会社の従業員として相当の経歴を持つ参加人が元本割れのない商品である旨述べた場合これを本件商品購入の最大の動機とすることは当然である。しかも、本件パンフレットには、「成長性に優れ、収益性が高い銘柄に分散投資を行い、」「売買益の獲得をめざす」と記載されており、その記載全体からすれば、担当証券会社社員の説明しだいでは、本件商品は元本の保証がなしうる程度に分散投資をする商品であるとの誤解を招くことも十分考えられる。

(三) 参加人は本件パンフレット以外に被告が正規に作成したパンフレットをも原告らに送付ないし交付したうえ自分のセールス中詳しいことは正規のパンフレットを読むよう原告太郎らに述べており、右正規のパンフレットには本件商品について元本保証をする商品ではないことが記載されている。

しかし、右正規のパンフレットの記載を前提とした説明ないし会話が参加人と原告太郎らとの間で交わされたことを認めるべき証拠はない。これまでの検討に照らし、これは参加人が元本割れがないと述べているのに原告太郎らにおいて元本割れの危険があると承知していたから右のような説明・会話がなかったと考えるべきではなく(そうだとすれば、参加人がいずれかの段階で、原告らに対し、投資信託であるから元本割れする可能性があることは当然であるとか、原告らもそれを知っていたもしくは知っていたはずであるとの反論ないし弁解をしているのが自然である。)、参加人の説明と本件パンフレットの記載から、原告太郎らにおいて本件商品は元本割れする可能性がない商品であると誤信(この誤信に過失が認められることは後記のとおりであるが。)したからであると認めるのが合理的である。

3 参加人の過失ないし違法性について検討する。

(一) 参加人は前記1(2)認定のような説明等をしている。

ところで、参加人が社内の勉強会の結果本件商品をいかなる場合においても元本割れしない商品と思っていたとしても、それが証券会社の顧客担当従業員として相当の注意を欠いていることは明らかである。しかし、本件商品については被告が作成した正規のパンフレットがあり、それには本件商品が元本保証のない商品であると記載されていること、参加人は右正規のパンフレットを利用して元本保証のない商品である旨の注意を除いた説明文書(甲三の書面、以下「本件パンフレット」という。)を作成している。そうすると、前記1(二)で認定したとおり、参加人は本件商品を元本割れする可能性のある商品と知っていたものと認められる。

(二)そして、一般に、証券会社等が元本保証の文言の表示や断定的判断の提供を禁止されていること、1(一)及び2(二)で述べたような原告らの経歴や経験に照らせば、参加人の(2)認定の説明は本件商品のような商品売買の際に売り主側に要求される説明義務を怠ったものとして過失があるというべきである。

(三) なお、《証拠略》によれば、参加人において、本件商品はその性質上は元本割れの危険があるものではあるが、その販売時期と信託期間(償還期限)に照らし当時の株式市場の好況から考えて元本割れはしまいと考えて本件パンフレットを作成したこと、原告らが本件商品を購入した当時被告社内ではこのようなパンフレットを作成することが日常的に行われ、被告は会社としてこれを容認していたこと、参加人はこのような事情のもと原告らに本件商品の購入を勧めたことが窺われ、参加人がこのような考えに立った原因が参加人が甲第一、二号証内で述べる社内勉強会やその際見たビデオにある可能性はある。しかし、これらの事実が認められるとしても、1(一)及び2(二)で述べた事実に照らし、本件商品につき元本割れの可能性がないと原告太郎らに説明した参加人に証券会社の顧客担当者としての説明義務違反があることは否定できない。

二  争点2について

1 原告らは国債を購入した場合の利益を損害算定の根拠にしている。これは本件商品について元本割れしない商品との説明を受けていなければ国債を購入していたとするものと解される。また、原告らが本件商品を購入する原資の一部として国債の中途解約により得られた金銭を利用したことは前記1(一)(6)認定のとおりである。しかし、原告太郎らが本件商品が元本割れする可能性のある商品であると知らされたならば本件商品ではなく償還期限を二年後とする中期国債を購入していたこと、このことを参加人が知りえたことについて原告らの右主張立証は不十分というべきである。そして、原告らは本件商品が元本割れしないとの説明を受けて購入したのにとどまるから、元本割れしない間には特に損害が発生したとすることはできず、元本割れ部分(損失部分)のみが損害となるというべきである。一方、本件商品中原告らにおいて売却していないものにつき、平成七年一月六日以降の価格変動を裏付ける証拠はない。

そうすると、原告らの取引損は、各購入金額から売却金額(未売却の分については平成七年一月六日の価格)を控除したものの合計にとどまるというべきである。一方、本件商品の中には売却金額が購入金額を上回るものがあるが、損益は各商品について認めるべきであるから、その上回り分を損害から控除する(損益相殺の対象にすることを含む。)ことは相当ではない。

その具体的金額は原告甲野太郎につき六六六万六〇七二円(一三四万五五九二円+五三二万〇四八〇円)、同甲野花子、同甲野春子及び同甲野一郎につきいずれも一〇一万八九九二円、原告会社につき三四二万五〇〇〇円(二六一万九〇〇〇円+八〇万六〇〇〇円)となる。

2 原告らの過失について

前記一認定の事実関係や、原告太郎が原告らと被告間の取引の際に交わされた各種書面について見ていないとか知らないとかの供述に終始していることからは、原告太郎らは被告の正規パンフレットをみたり、自ら投資信託の意味内容を多少検討するなどして、本件商品が元本割れする可能性のある商品であることをその購入前に知りえたと認められ、原告太郎らには参加人の説明を信じて本件商品を順次購入して原告らに損害の発生・拡大を生じさせたことについて重大な落ち度がある。その落ち度の程度は本件商品の購入を続ける間に次第に大きくなっていったと認めるべきであるが、本件商品の全購入を通じ、原告らに生じた損害のうち八割は原告太郎ら自身の過失によるものと認めるのが相当である。

3 右1、2の結果、原告らの直接的な損害は原告甲野太郎につき一三三万三二一四円、同甲野花子、同甲野春子及び同甲野一郎につきいずれも二〇万三七九八円、原告会社につき六八万五〇〇〇円となり、本件では債務不履行に基づく損害として右金額の各一割を相当な弁護士費用と認める。したがって、原告らが被告に対して賠償を請求しうる金額は、原告甲野太郎につき一四六万六五三五円、同甲野花子、同甲野春子及び同甲野一郎につきいずれも二二万四一七七円、原告会社につき七五万三五〇〇円となる。

4 本件訴状の被告への送達日は平成五年四月二六日である。

第四  結論

そうすると、原告らの請求は主文で述べた限度で理由がある。

(裁判官 橋本 一)

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